耐震や制震、免震などといったフレーズは聞いたことがあっても、その実態についてはきちんと理解できていないという方も多いのではないでしょうか。
今回はそういった方向けに、3つの対策の違いについてわかりやすく解説を行っていきます。
地震が頻発する日本国内において、絶対に安全と言える場所はないでしょう。
少なからず存在するリスクに対して、どういった対策を講じることが有効なのか、知っておくことが重要です。
単に耐震化すれば良いという問題ではなく、いかに地震から住宅や身を守るかが大切になってきます。
そういった意味でも、自己満足の耐震化ではなく、効力のある耐震化を進めていくことが求められています。
その辺も含めて、参考にしていただければ幸いです。
※この記事は約5分程度で読むことができます。
耐震・制震・免震、それぞれの概要と違い
地震対策には耐震・制震・免震という3つの工法がありますが、それぞれの違いを十分に理解している人は多くありません。
マイホームの購入を検討している人にとって最大のリスクといえるのが地震です。
地震というリスクを回避するために、まずはそれぞれの違いを理解しておく必要があります。
耐震とは?
壁や柱を強化したり補強材を入れたりすることで、建物自体の強度を上げて地震の揺れに対抗する工法です。
多くの住宅で採用されている工法で、地震が起きた際に建物が倒壊せず、住人が避難できることを前提とした構造になっています。
骨組みの中に筋交いを設けたり、側面から合板を打ちつけたりして強度を上げていきます。
筋交い以外にも、柱と梁の接合部を固定金物で補強します。
簡易に取り組める工法なので、建築基準法が示す最低限確保すべき耐震性のレベルも、耐震の元となる考え方の一つです。
元来、モノとしての形を維持するために必要な固さを振動対策に用いた工法なので、地震の際に釘穴が緩むことがあり、抵抗要素の元である固さ自体を低下させてしまう弱点があります。
制震とは?
建物内部にダンパーという振動低減装置を組み込んで地震の揺れを吸収することで、建物に粘性をもたせて振動を抑える工法です。
骨組みの中に筋交いや合板を配置した上で振動低減装置を配置します。
制震部材である錘(おもり)を配置することもあります。
運転中にブレーキをかけて減速するときと同様に、建物の揺れを抑えるブレーキ効果があります。
高層ビルや高層住宅などの高い建物は、上層に行くほど揺れが増すので高い効果を発揮します。
振動低減装置は、完全に固定せずに揺れへの追従が可能な状態になっているので、地震の振動エネルギーは振動低減装置の働きによって消費されます。
免震とは?
建物と基礎の間に免震装置を組み込んで、建物を地盤から絶縁することで地震の揺れを受け流し、直接的な揺れを建物に伝えない工法です。
骨組みの中に筋交いや合板を配置して十分に固め、建物と基礎の間に免震装置を組み込みます。
建物と基礎を間接的に繋いでいることにより、建物が基礎の上で動ける状態になっているので、建物に地震の揺れが伝わりにくくなります。
地震が起きた時は土台から上の建物部分が移動するので、それに対応できる設備配管の仕様にしておく必要があります。
日本国内での普及率が高いのは耐震
耐震・制震・免震の概要や違いなどを解説しましたが、揺れに対するアプローチ手法はさまざまです。
免震工法の採用数は年間およそ250棟で、耐震工法の520分の1ほどですが、リニューアルした東京駅丸の内駅舎に採用されるなど、新たな地震対策として注目を集めています。
耐震・制震・免震、それぞれの地震対策度
耐震・制震・免震、それぞれの対策を行うことで、どの程度地震対策になるのか解説していきます。
耐震の地震対策度
耐震は、建物が倒壊しないことを主な目的としているので、地震の揺れがダイレクトに建物に伝わります。
そのため、建物自体の揺れや損傷はもとより、家具の倒壊やガラスの飛散、物の落下などが起こる危険性があります。
上階になるほど揺れが大きくなる構造のため、家具の倒壊や物の落下など、室内における事故発生率は上階であるほど上がります。
ゆえに、高層ビルや高層住宅には不向きな工法といえます。
繰り返し起こる地震に対する強度が弱いため、建物の破壊が進行してしまうことが懸念されます。
倒壊を免れたとしても、「躯体(くたい)床、壁、梁など建物の構造を支える骨組」に損傷が生じることもあるので、耐震に制震や免震を組み合わせて採用されることが多くなっています。
制震の地震対策度
建物の主要な部分に配置される振動低減装置(ダンパー)や制振部材(錘)などが、揺れに追従して振動エネルギーを吸収、消費するため、揺れが大幅に小さくなることはありません。ですが、構造上、繰り返される地震には有効な工法といえます。
耐震に比べれば、建物自体の損傷や変形などは軽減されます。
また、高層ビルや高層住宅など高い建物の上階であるほど揺れを抑えることができます。
免震と比べると揺れが伝わりやすいため、家具の倒壊や人の転倒など室内での事故発生率は高くなります。
免震の地震対策度
建物が地盤の揺れに伴って振動せずに反作用で移動するため、建物自体の揺れ、変形、損傷や建物内の被害が大きく減少します。
免震装置は、建物を支えると同時に建物の固有周期を延ばす役割を持つ「アイソレータ」と振動を抑える「ダンパー」で構成されており、中には地震の揺れを80%以上軽減できるものもあります。
そのことによって、家具の倒壊や物の落下などの危険性を最大限抑えることができるので、高い確率で地震による二次災害を防ぐことができます。
小さな地震の場合は、ほとんど揺れを感じないことも少なくありません。
体感する揺れの平均的な大きさは、実際の震度と比べて3分の1~5分の1ほどです。
最も地震対策度が高いのは免震
耐震・制震・免震、それぞれの地震対策度を解説しました。
それぞれ地震対策に有効な工法ですが、最も地震対策度が高い工法は免震だということがご理解いただけたのではないでしょうか。
前述したように、耐震に制震や免震を組み合わせて採用されることが多くなっているので、より万全な地震対策を望むのであれば、耐震と制震、耐震と免震など複数の工法を組み合わせることが必要です。
耐震・制震・免震の地震に対する強度の違い
耐震の地震に対する強度
耐震は、構造体のみに特化して強度を与える工法です。
建物の揺れ自体を抑える工法ではないので、建物が損壊してしまうこともあります。
目で確認できない構造部分が損傷しているケースもあるので、地震が起きたときは建物のチェックや修繕が必要となる場合もあります。
耐震構造は建物の揺れを直に受け止めることを前提としているので、ある程度の損傷が生じるのを免れることはできません。
ある程度の揺れまでは、ほぼ損壊することはありません。
ですが、震度6クラスの通常の想定範囲を超える地震が発生した場合は、建物が傾かないようにする代わりに揺れが増幅されるので、建物内部の損壊、家具の倒壊、壁の亀裂などが生じる危険性があります。
耐震は一度の大きな地震に対してのみ有効な構造で、繰り返される余震に対しての強度は強くありません。
そのため、本震の時に倒壊を免れたとしても、徐々に損傷が蓄積されることによって建物が倒壊してしまう可能性もあります。
大きな地震が起こった時は、柱、梁、壁などの主要構造体を守る代わりに、制御装置がダメージを受けて損傷することで、建物自体の倒壊を防ぐことになります。
制震の地震に対する強度
地震によって建物に加わる振動エネルギーを制振装置が吸収するため、耐震と比べて建物の損傷を大きく抑えることができます。
主要構造体にダメージを溜め込まないので、繰り返し起こる余震にも有効で、建物の倒壊を防ぐ効果も見込めます。
耐震と制震を組み合わせることで、より強度の高い構造になります。
制御装置が柱、梁、壁などの主要構造体を守ってくれるので、早期の復旧が可能で、地震後も居住を続けることができます。
ダメージを受けた制御装置は、補修や交換することで元の状態にすることが可能です。
免震の地震に対する強度
地震が起きたとき、地表面の揺れが建物にダイレクトに伝わらないため、建物の揺れは地表面より小さくなります。
建物と地面が絶縁されているため、建物の損傷、揺れともに大幅に減少しますが、縦揺れの地震には横揺れの地震ほどの効果はありません。
免震装置の上に耐震構造の建物を載せることで、より強度の高い免震構造となります。
ですが、小規模から中規模の地震の場合、免震装置が作動しないことがあります。
その場合は、免震装置ではなく耐震構造だけに頼ることになります。
免震装置は震度3から作動するという営業マンもいますし、震度5以上じゃないと作動しないという営業マンもいます。
このようにハウスメーカーによって違いはありますが、中規模以下の地震では作動しない場合があります。
耐震・制震・免震の違い 比較表
耐震 | 制震 | 免震 | |
---|---|---|---|
地震への具体的効果 | 倒壊を防ぐ | 振動を抑える | 直接的な揺れを建物に伝えない |
地震対策度 | 複数回の大きな地震で倒壊の恐れあり | 複数回の大きな地震にも有効な工法 | 建物自体の揺れ、変形、損傷や建物内の被害を軽減 |
耐震強度 | 一度の大きな地震には有効 | 耐震と比べて建物の損傷を大きく抑えられる | 建物の揺れは地表面より小さい |
地震時の家具転倒の可能性 | 免震に比べると格段に高い | 2階から上階は軽減される | 階数を問わず大幅に軽減 |
改築時の対応 | 耐震補強が可能 | 可能だが、相応の技術力が必要 | 新築での対応が無難 |
(一般的な)費用 | ほぼ無料(現在の住宅は耐震化されているものが多い) | 30万~100万円 | 350万~600万円 |
まとめ
耐震・制震・免震の違いについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
どのタイプであれ、地震対策を施していることに変わりはありませんが、少しずつ効果や対応法が異なることをご理解いただけたのではないでしょうか。
3つの対策においては、免震が一番効果の高い対策と言えますが、地震のタイプによって効果が出にくいケースもあります。
まずは、自分が住んでいる家がどのタイプの地震対策を施しているのかを知ることから始め、状況に応じて、必要な対策を講じていくことが大切でしょう。
集合住宅の場合は、管理人や大家との交渉も必要となってきますので、適切な地震対策がとられているのかといったことや、対策について確認しておく必要があります。
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